《药》

通过茶馆主人华老栓夫妇为儿子小栓买人血馒头治病的故事,揭露了长期的封建统治给人民造成的麻木和愚昧...




  秋の夜の真夜中過ぎ、月は沈んでしまい、太陽はまだ出ず、一面に青黒い空だけが残されている。夜出る生き物の他は、すべてのものが眠っている。華老栓は、むっくり起き上がった。マッチを擦って、油だらけの燈心皿に火を入れた。茶館の二間の部屋に、青白い光がみなぎった。
 「父さん、出かけるかい?」
  年とった女の声である。奥の小部屋からも、ひとしきり咳をする音が聞こえてくる。
 「うん」
  老栓は、耳を済ませながら、そう答えて、服のボタンをはめた。手を突き出して、
 「渡してくれ」
  華大媽は、枕の下をごそごそやって、やがて銀の包みを取り出し、老栓に渡した。老栓は受け取って、震える手でポケットに入れ、上から押さえてみた。それから提灯に火をつけ、燈心を吹き消し、奥の部屋へ行った。その部屋では、何やらガサガサ音がしていたと思うと、続いてコンコンと言う咳が聞こえた。老栓は、咳がおさまるのを待って、低い声で呼んだ。
 「小栓......起きなくていいよ......店かい? おっ母さんがやってくれるから」
  老栓は、息子が何も言わなくなったので、安心して眠ったものと思った。そこで戸を開けて、往来へ出た。往来は真っ暗で、何もなかった。一筋のほの白い道だけが見分けられた。提灯の明かりが、彼の両足が互い違いに前に出るのを照らし出した。時々、犬に出会った。だが一匹も吠えなかった。外は部屋の中よりはるかに寒かった。老栓には、それがむしろ快く、まるで自分が急に若返って、神通力を得て人に生命を与える天分を授かりでもしたように、思いきり足を高くあげることができた。しかも、道は歩くにつれてますますハッキリし、空もますます明るくなった。
  老栓はひたすら道を急いでいたが、急にドキッとなった。はるか向うに一本のT字路が横たわっているのが、ありありと見えた。彼は二、三歩後ずさって、一軒の戸の閉まっている店を探り当て、その軒下ににじり寄って、戸にもたれて立っていた。暫くして、からだがゾクゾクするのを感じた。
 「フン、じじい」
 「酔狂な......」
  老栓は、またもドキッとなった。目を見張って眺めると、数人のものが彼の前を通って行った。その中の一人は、振り向いて彼の方を見た。格好は良く分からなかったが、長いあいだ飢えていた人間が食物を見た時のように、つかみかかるような光が目からほとばしり出た。老栓が提灯を見ると、火は消えていた。懐中を押さえてみると、確かに手ごたえがあった。頭をもたげて両側を見渡した。たくさんの妖しげな人間が、三々五々、幽霊のようにうろついている。だが、瞳をこらしてもう一度見直した時には、他になんの怪しいこともなかった。
  やがてまた、今度は数人の兵隊が動き回っているのが見えた。服の前後についている大きな白い丸が、遠くからでもハッキリ分かった。目の前を通る兵隊のは、軍服についている暗紅色の縁取りまでが見分けられた。......バタバタと足音がしたと思うと、瞬く間に、一団のものがもみあって通り過ぎた。三々五々散らばっていた人間が、これもたちまち一段となって、潮のように前進した。そしてT字街の角までさしかかった時、急に立ち止まって、半円形に密集した。
  老栓もその方向に目を向けたが、見えるのは群がった人間の背中だけだった。どの首も思いきり上へのばしている。まるでたくさんのアヒルが、目に見えぬ手で首筋を捕まえられて、吊るし上げられているような格好だった。しばらくシーンとなった。それから何か音がして、また動揺が起こった。ズドンという音で、一斉に後退し、バラバラ老栓の立っているところまで走ってきて、危うく彼を押し倒しそうになった。
  「そら、金と品物と引き換え!」
  全身真っ黒な男が、老栓の前に立っていた。二本の刀のようなその眼光に射すくめられて、老栓は体を半分ほどに縮み上がらせた。。その男は、片方の大きな手を広げて彼に突き出した。片方の手には真っ赤な饅頭をつまんでいて、その赤いものはまだポタポタたれていた。
  老栓は、慌てて銀貨を探り出し、震える手で渡そうとした。だが、その男の持っている品物の方へは手がのびなかった。その男は、イライラした口調で
 「何が恐い。どうして取らねえんだ」
 と、怒鳴った。それでも老栓が手を出しかねていると、黒い男は、提灯をひったくって、バリッと紙をはがし、それで饅頭をくるんで老栓に押し付けた。そして片手で銀貨を掴み、握ってみてから、廻れ右して立ち去った。口の中で「チェッ、じじい......」とつぶやきながら。
  「それで誰の病気をなおすんだい?」
  老栓は、こう問いかけられたような気がしたが、答えようとしなかった。彼の気力はただ一つの包みの上に集中していて、ひとり子で十代血統のつながる大事な赤子を抱いているかのように、他のことを考える余裕がなかった。彼は今、この包みの中の新しい生命を、我が家へ移植して多くの幸福を刈り取りたいのだ。日も昇った。彼の前には、一本の大道があらわれ、それはずっと彼の家の中まで続いている。彼の後ろには、T字街の角に立てられている古びた額に、「古?亭口(一字欠けている)」の四つのすすぼけた金字が照らし出されていた。
 

  老栓が家に帰ってみると、店はきれいに片付いていて、きちんと並べられた茶卓はピカピカに光っていた。だが、まだ客の姿はなかった。小栓が、奥の卓で飯を食っているだけだった。大粒の汗がポタポタ額から落ち、袷の上衣は背中に張り付いて、飛び出した二つの肩甲骨が八の字模様を描いている。老栓はこの様を見て、開きかけた眉を思わずまた顰めた。彼の女房が、かまどの前から急いで出てきた。目を見張り、口は微(かす)かに震えている。
 「あったかい?」
 「あった」
  二人は一緒にかまどのところへ行って、ひそひそ話し合っていた。それから華大媽は出ていったが、間もなく、枯れた蓮の葉を一枚持って帰ってくると、それを卓の上に広げた。老栓は提灯の紙をほどいて、蓮の葉でその赤い饅頭を包みなおした。小栓は飯を食い終わっていた。母親が慌てて
 「小栓......そこにいなさい。こっちへ来るんじゃないよ」
  そう言いながらかまどの火をかき立てた。老栓は、緑色の包みと、赤白まだらの破れ提灯とを一緒くたにかまどへ押し込んだ。パッと赤い焔が黒い煙りに混じって出た。店にも部屋にも一種異様な臭いが立ちこめた。
 「いいにおいだ。何の朝飯かな?」
  これは、せむしの五少爺がやってきたのだ。この男は毎日、茶感で日を送る。一番早く来て、一番遅く出ていく。このとき、ちょうど入ってきて、往来に面した壁ぎわの卓に腰をおろしたところで、こう問いかけてきたのだ。だが誰も返事をしなかった。
 「入り米の粥かい?」
 それでも返事がない。老栓は急いで出ていって、茶を入れてやった。
 「小栓、入っておいで」
  華大媽は、小栓を奥の部屋に呼び入れた。まん中に腰かけが置いてある。小栓はそれにかけた。母親は、真っ黒い、丸いものを皿に持って出してきて、そっと言った。
 「お食べ......病気がなおるから」
  小栓は、その黒いものをつまんで、しばらく眺めていた。自分の命を手に持っているような、なんとも言えぬ奇妙な気持ちだった。恐る恐る二つに割ると、焦げた皮の中からパッと湯気が出て、湯気が消えると、それは半分に割った二つの小麦粉の饅頭だった。......間もなく、すっかり腹の中におさまってしまったが、どんな味だったか、どうしても思い出せなかった。目の前には空の皿だけが残っている。彼の傍には、一方に父親が、一方に母親が立っている。二人の視線が、まるで彼の体に何かを注ぎ込み、それからまた何かを取り出すかのように彼に向かっているのを見ると、思わず心臓がドキドキしてきて、胸を押さえて、またひとしきり咳き込んだ。
 「しばらくお休み......そしたらよくなるよ」
  小栓は、母親に言われるままに、咳き込みながら眠った。華大媽は、彼の咳がおさまるのを待って、つぎはぎだらけの袷のふとんをそっとかけてやった。
 

  店には客が立て込んできた。老栓は忙しくなり、大きなやかんを下げて、次から次へと客に湯をついでまわった。両の眼のふちに黒い隈ができていた。
 「老栓、気分でも悪いのかい......病気じゃないか?」
  ごま塩ヒゲの男が言った。
 「いいえ」
 「いいえ?......そう言えばニコニコしていて、病気らしくないとは思ったが......」
  ごま塩ヒゲの男はさっそく前言を取り消した。
 「老栓も忙しくて大変さ。これで、せがれさえ......」
  せむしの五少爺の言葉がまだ終わらぬ先に、突然、ズカズカ入ってきた男があった。顔一面、贅肉でたるみができている。黒い木綿の長い衣をを、ボタンもかけずに着流し、黒のはば広の帯をだらしなく腰に巻き付けている。入ってくるなり、わめくように老栓に向かって、
 「食ったかい? よくなった? 老栓、おめえ、運がよかったんだ。運だよ。おれの聞き込みが遅かってみろ......」
  老栓は、片手にヤカンを下げ、片手は恭(うやうや)しく垂れて、ニコニコしながら聞いていた。満座の客たちも、恭しく聞いていた。華大媽は、これも眼のふちに黒い隈のできた顔をニコニコほころばせて、茶碗と茶の葉を運んできて、それに橄欖を添えて客に差し出した。老栓が湯をついだ。
 「よくなること請け合いさ。並みの品物とはちがうんだからな。何しろ、おめえ、熱いうちにもって来て、熱いうちに食うんだからな」
  贅肉の男はしきりにわめいた。
 「ほんとですよ。康大叔(かんたーしゅ)にお世話していただいたお陰で、まったく‥‥‥?
  華大媽は、心から感激して、礼を述べた。
 「請け合い、請け合い。何しろ、熱いうちに食うんだからな。何しろ、この人血饅頭ときたひには、どんな肺病だって、治ること請け合いさ?
  華大媽は「肺病」という言葉をきいて、ふと顔色を変え、やや不機嫌になった。が、たちまちまた笑顔をつくり、ていよくその場を立ち去った。康大叔のほうは、それに気がつかず、なおも声をはりあげてわめき立てた。そのわめき声で、奥に寝ていた小栓が目をさまし、いっしょになってコンコンと咳きはじめた。
 「そうか、おまえとこの小栓は、そんないい運にめぐりあったのかい。それじゃ、この病気はよくなるにきまっている。どうりで、老栓が一日じゅうニコニコしていると思ったよ?
  そう言いながら、ごま塩ひげは、康大叔の前にやって来て、声をひそめて、たずねた。「康大叔‥‥‥今日、お仕置きになった罪人は、夏(しあ)家の子だっていうが、誰の子かね? そして事件は何かね??
 「誰の子? そりゃ、夏四(しあすー)ナイナイの伜(せがれ)さあね。あの小伜」
  康大叔は、みんなが耳をすましてきいているのを見て、すこぶる上機嫌で、顔の贅肉をゆすぶりながら、ますます声を大きくした。「あのガキぁ、命はいらんとよ。いらなきゃ、いらんでいいさ。だが、今度の一件では、おれはちっともいいことなかった。剥ぎ取った着物まで、牢番の赤眼の阿義(あーいー)にもっていかれてしまうしさ‥‥‥一番の当たり屋は、なんてったってここの老栓よ。二番目は夏三爺(しあさんいえ)さ。大枚二十五両、真っ白な銀で褒美に頂戴してよ、一文も使わねえでまるまる自分の財布に入れてしまいやがった?
  小栓が、のろのろ小部屋から出てきた。両手で胸をおさえて、しきりに咳をしている。かまどの前へ行って、茶碗に冷や飯をよそって、熱湯をかけて、腰をおろして食い始めた。華大媽は、後についていって、そっとたずねた。
 「小栓、少しはよくなったかい‥‥‥やっぱりおなかが空くんだね」
 「なおる、なおる」
  康大叔は、小栓の方にチラと眼をやった。それからまた、ふり返ってみんなの方を見て、「夏三爺は抜け目のねえやつさ。なぁ、もしも訴え出なかったとしてみろよ。あいつだって打ち首の財産没収になるところじゃねえか。それが今じゃどうだ。大枚二十五両!‥‥‥あのガキもガキだ。牢にぶちこまれてまで、牢番に謀叛をそそのかしゃがって」
 「へぇ、またひどいね」
  うしろの卓にいた二十歳あまりの男が、憤慨の口調で言った。
 「いいか、訳はこうだ。赤眼の阿義はな、こまかな事情をききにいったんだ。すると野郎、議論をふっかけてきやがった。やつはな、この大清帝国の天下はわれわれみんなのものである、こうぬかしゃがるんだ。いいか、なぁ、これが人間の言うことかよ。赤眼はな、やつの家には、年よりのおふくろ一人しかいねぇってことは知っていたさ。だがな、あれほど貧乏だとは知らなかった。さかさにしたって油一滴搾れやしねぇ。それでいい加減むかっ腹を立てていたところへもってきて、このお談義とくらぁ。虎の頭を掻くようなものさ。いきなり阿義からパンパンと二つばかり食らいやがった」
 「阿義は拳法の達人だから、二つも食らったら、相当こたえたろうな」
  壁の隅にいたセムシが、ひと膝のり出してきた。
 「ところが、あのろくでなし、こたえねぇ。おまけに、気の毒なとぬかしよった」
  ごま塩ひげの男が
 「そんな野郎をなぐったとて、何の気の毒なものか」
  康大叔は、相手をさげすむようにせせら笑って
 「おまえさん、わしの話のどこをきいているんだ。やつの言い分はな、阿義が気の毒だってんだ」
  きいている人たちの視線が、急にとまどった風を見せ、話し声もやんだ。小栓は飯を食い終わっていた。からだ一面に汗が流れ、頭からも湯気が出ていた。
 「阿義が気の毒‥‥‥バカな。気ちがい沙汰だ」
  ごま塩ひげは、急にさとったように、言った。
 「気がちがったんだ」
  二十歳あまりの男も、急にさとったように、言った。
  そこでまた店の客たちは活気付いて、にぎやかに談笑しはじめた。小栓も、その騒ぎに負けずに咳をした。康大叔は、つと近寄ってきて、彼の肩をたたいて言った‥‥‥
 「なおるよ、小栓‥‥‥そう咳をしちゃいけねぇ。きっとなおる」
 「気がちがった」 と、セムシの五少爺がうなずきながら言った。
 

  西門外の、城壁にそった空き地は、もと官有地だったところである。まん中に一本、せまい曲がりくねった小道が通っているのは、近道する人の靴の底で踏み固められてできたものである。その道がおのずから境界線をなして、道の左側には、死刑囚や獄死者の死骸が埋めてあり、右側は貧乏人の共同墓地になっている。どちらも今では、土饅頭が累々と盛り上がっていて、金持ちの家で長寿の賀を祝うときの饅頭の山にさながらである。
  この年の清明節は、例年になく寒かった。楊柳はまだ、米粒の半分ほどの新芽を吹いたばかりである。夜があけてまもないころ、華大媽はもう右側の墓地にある一つの新しい塚の前にうずくまっていた。四皿の料理と一碗の飯をそなえ、ひとしきり泣き、紙銭を焼き、そのままぼんやり地上に腰をおろしていた。何かを待っているような気がしたが、何を待っているのかは自分にもわからなかった。微風がわたって、彼女の短い紙をなびかせた。めっきり去年より白髪が増えている。
  小道を、また一人の女がやって来た。これも髪が半ば白く、身にはボロをまとっている。壊れかかった朱塗りの丸カゴをさげ、カゴの外には紙銭を吊るして、ヨチヨチした足取りで近づいて来た。ふと、華大媽が地面に腰を下ろしたまま自分の方を眺めている姿に気がつくと、ややたじろいで、血の気のない顔に羞らいの色をうかべた。だが、やがて意を決した様子で、左側の一つの塚の前へ行って、カゴをおろした。
  その塚は、小栓の塚と一文字にならんでいて、間に小道をへだてているだけだった。華大媽が見ていると、女は、四皿の料理と一碗の飯をそなえ、立ったままでしばらく泣き、紙銭をもした。「あの墓も息子の墓なんだな」と彼女はひそかに思った。その老女は、歩きながらあたりを眺めていたが、突然、手足をふるわせて、よろよろと数歩あとじさり、眼を見開いて立ちすくんだ。
  華大媽は、その様子を見て、彼女が今にも傷心のあまり狂い出すのではないかと思った。見かねて立ちあがり、小道を越えてそばへ寄って、小声に話し掛けた。
 「ねぇ、おかみさん、そう悲しまないで‥‥‥それより、もう帰りませんか」
  その女は、うなずいては見せたが、眼はなおも空へ向かって見開いたままだった。そして、これも小声で、どもりながら言った。
 「あれ‥‥‥あれは、何でしょう?」
  華大媽は、その指差す方を見やった。視線はおのずと前の塚の上に落ちた。その塚は、草の根がまだ全体に廻らず、赤土があちこちむき出しになっていて、見苦しかった。ところが、視線を上にたどって、丹念に眺めたとき不意にドキリとなった‥‥‥あきらかに、赤や白の花の輪が、円錐型の塚の頂を取り囲んで咲いているではないか。
  彼女たちの眼は、とうの昔に霞んでしまってはいたが、この赤や白の花を見定めるくらいには、まだしっかりしていた。花はさして多くはないが、まんまるく輪になっている。勢いもよくはないが、ともかくきちんと咲いている。華大媽は、自分の息子の墓や、他の人の墓にいそいで眼をやった。そこには冬でも枯れぬ小さな白い花が、飛び飛びにボツボツ咲いているだけであった。彼女は、何がなし心にある種の不満と空虚がわき起こるのを感じ、そのいわれをつきとめたくない気持ちになった。ところが老女のほうは、ニ、三歩前へ進み出て、その花をためつすがめつし、ひとりごとのように「これには根がない。ひとりでに咲いたんじゃない。こんな場所、だれがやってくる? 子どもだって遊びにきやしない‥‥‥親戚はとっくに来やせんし‥‥‥一体、どうしたんだろう?」しきりに考え込んでいたが、急にハラハラと涙をこぼすと、声をはりあげて‥‥‥
 「瑜児(ゆーる)や、あいつらがおまえに無実の罪を着せて、おまえはそれが今でも忘れられなくて、悲しくてたまらないものだから、今日は霊験をあらわして、私にわからせておくれかい?」
  彼女はあたりを見回した。カラスが一羽、葉のない一本の木の上にとまっていた。彼女はつづけて
 「私ぁ、わかったよ。‥‥‥瑜児や、かぁいそうに、あいつらがおまえを陥れて、あいつら、きっと今に報いを受けるよ。お天道様が御存じだよ。おまえは安心して眼をおつむり‥‥‥おまえ、ほんとにここにいて、私の言うことがきこえたら‥‥‥そうしたら、あのカラスをおまえのお墓の上に飛ばせて、私に見せておくれ」
  微風はとうに止んでいた。枯草が一本一本、針金のように直立している。針金をふるわすような、かすかな物音が、空気の中をふるえながら伝わってゆき、次第に小さくなって、ついに消えてしまうと、あとは周囲が死のような静寂である。二人は、枯れた草むらのなかに立って、そのカラスを仰ぎ見ていた。そのカラスも、直立した枝の間で、首を縮めて、鋳物のように突っ立っていた。
  あまたの時間が流れ去った。墓参りの人の数が次第に増し、年寄りや子どもの姿がいくつも、土饅頭の間に見え隠れした。
  華大媽は、なぜとなしに、重い荷物をおろしたような気がして、帰ろうという思案になった。そして
 「さぁ、もう帰りましょうよ」と老女にすすめた。
  老女は、ホッと息をついて、元気なく供物の片づけをはじめた。しかし、まだ帰りともない風で、ためらっていたが、ついにのろのろ歩き出した。「一体、どうしたことだろう‥‥‥」と口の中でひとりごちながら。
  彼女たちが、まだ二、三十歩行かぬうちに、突然、背後で「カアー」という甲高(かんだか)い鳴き声が聞こえた。二人はギクッとなって、うしろをふり向いて見た。さっきのカラスが両の羽をひろげて、身をかがめたかと思うとたちまち一直線に、矢のように遠くの空をめがけて飛び去っていった。

         
(一九二○年六月)

 
作品原文


  


秋天的后半夜,月亮下去了,太阳还没有出,只剩下一片乌蓝的天;除了夜游的东西,什么都睡着。华老栓忽然坐起身,擦着火柴,点上遍身油腻的灯盏,茶馆的两间屋子里,便弥满了青白的光。
“小栓的爹,你就去么?”是一个老女人的声音。里边的小屋子里,也发出一阵咳嗽。
“唔。”老栓一面听,一面应,一面扣上衣服;伸手过去说,“你给我罢”。
华大妈在枕头底下掏了半天,掏出一包洋钱,交给老栓,老栓接了,抖抖的装入衣袋,又在外面按了两下;便点上灯笼,吹熄灯盏,走向里屋子去了。那屋子里面,正在悉悉窣窣⑴的响,接着便是一通咳嗽。老栓候他平静下去,才低低的叫道,“小栓……你不要起来。……店么?你娘会安排的”。
老栓听得儿子不再说话,料他安心睡了;便出了门,走到街上。街上黑沉沉的一无所有,只有一条灰白的路,看得分明。灯光照着他的两脚,一前一后的走。有时也遇到几只狗,可是一只也没有叫。天气比屋子里冷多了;老栓倒觉爽快,仿佛一旦变了少年,得了神通,有给人生命的本领似的,跨步格外高远。而且路也愈走愈分明,天也愈走愈亮了。
老栓正在专心走路,忽然吃了一惊,远远里看见一条丁字街,明明白白横着。他便退了几步,寻到一家关着门的铺子,蹩进⑵檐下,靠门立住了。好一会,身上觉得有些发冷。
“哼,老头子”。
“倒高兴……”
老栓又吃一惊,睁眼看时,几个人从他面前过去了。一个还回头看他,样子不甚分明,但很像久饿的人见了食物一般,眼里闪出一种攫取的光。老栓看看灯笼,已经熄了。按一按衣袋,硬硬的还在。仰起头两面一望,只见许多古怪的人,三三两两,鬼似的在那里徘徊;定睛再看,却也看不出什么别的奇怪。
没有多久,又见几个兵,在那边走动;衣服前后的一个大白圆圈⑶,远地里也看得清楚,走过面前的,并且看出号衣上暗红的镶边。——一阵脚步声响,一眨眼,已经拥过了一大簇人。那三三两两的人,也忽然合作一堆,潮一般向前进;将到丁字街口,便突然立住,簇成一个半圆。
老栓也向那边看,却只见一堆人的后背;颈项都伸得很长,仿佛许多鸭,被无形的手捏住了的,向上提着。静了一会,似乎有点声音,便又动摇起来,轰的一声,都向后退;一直散到老栓立着的地方,几乎将他挤倒了。
“喂!一手交钱,一手交货!”一个浑身黑色的人,站在老栓面前,眼光正像两把刀,刺得老栓缩小了一半。那人一只大手,向他摊着;一只手却撮着一个鲜红的馒头⑷,那红的还是一点一点的往下滴。
老栓慌忙摸出洋钱,抖抖的想交给他,却又不敢去接他的东西。那人便焦急起来,嚷道,“怕什么?怎的不拿!”老栓还踌躇着;黑的人便抢过灯笼,一把扯下纸罩,裹了馒头,塞与老栓;一手抓过洋钱,捏一捏,转身去了。嘴里哼着说,“这老东西……”
“这给谁治病的呀?”老栓也似乎听得有人问他,但他并不答应;他的精神,现在只在一个包上,仿佛抱着一个十世单传的婴儿,别的事情,都已置之度外了。他现在要将这包里的新的生命,移植到他家里,收获许多幸福。太阳也出来了;在他面前,显出一条大道,直到他家中,后面也照见丁字街头破匾上“古囗亭口”⑸这四个黯淡的金字。
  


老栓走到家,店面早经收拾干净,一排一排的茶桌,滑溜溜的发光。但是没有客人;只有小栓坐在里排的桌前吃饭,大粒的汗,从额上滚下,夹袄也帖住了脊心,两块肩胛骨高高凸出,印成一个阳文⑹的“八”字。老栓见这样子,不免皱一皱展开的眉心。他的女人,从灶下急急走出,睁着眼睛,嘴唇有些发抖。
“得了么?”
“得了。”
两个人一齐走进灶下,商量了一会;华大妈便出去了,不多时,拿着一片老荷叶回来,摊在桌上。老栓也打开灯笼罩,用荷叶重新包了那红的馒头。小栓也吃完饭,他的母亲慌忙说:“小栓——你坐着,不要到这里来。”一面整顿了灶火,老栓便把一个碧绿的包,一个红红白白的破灯笼,一同塞在灶里;一阵红黑的火焰过去时,店屋里散满了一种奇怪的香味。
“好香!你们吃什么点心呀?”这是驼背五少爷到了。这人每天总在茶馆里过日,来得最早,去得最迟,此时恰恰蹩到临街的壁角的桌边,便坐下问话,然而没有人答应他。“炒米粥⑺么?”仍然没有人应。老栓匆匆走出,给他泡上茶。
“小栓进来罢!”华大妈叫小栓进了里面的屋子,中间放好一条凳,小栓坐了。他的母亲端过一碟乌黑的圆东西,轻轻说:
“吃下去罢,——病便好了”。
小栓撮起这黑东西,看了一会,似乎拿着自己的性命一般,心里说不出的奇怪。十分小心的拗开⑻了,焦皮里面窜出一道白气,白气散了,是两半个白面的馒头。——不多工夫,已经全在肚里了,却全忘了什么味;面前只剩下一张空盘。他的旁边,一面立着他的父亲,一面立着他的母亲,两人的眼光,都仿佛要在他身上注进什么又要取出什么似的;便禁不住心跳起来,按着胸膛,又是一阵咳嗽。
“睡一会罢,——便好了”。
小栓依他母亲的话,咳着睡了。华大妈候他喘气平静,才轻轻的给他盖上了满幅补钉的夹被。
  


店里坐着许多人,老栓也忙了,提着大铜壶,一趟一趟的给客人冲茶;两个眼眶,都围着一圈黑线。
“老栓,你有些不舒服么?——你生病么?”一个花白胡子的人说。
“没有。”
“没有?——我想笑嘻嘻的,原也不像……”花白胡子便取消了自己的话。
“老栓只是忙。要是他的儿子……”驼背五少爷话还未完,突然闯进了一个满脸横肉的人,披一件玄色⑼布衫,散着纽扣,用很宽的玄色腰带,胡乱捆在腰间。刚进门,便对老栓嚷道:
“吃了么?好了么?老栓,就是运气了你!你运气,要不是我信息灵……”
老栓一手提了茶壶,一手恭恭敬敬的垂着;笑嘻嘻的听。满座的人,也都恭恭敬敬的听。华大妈也黑着眼眶,笑嘻嘻的送出茶碗茶叶来,加上一个橄榄,老栓便去冲了水。
“这是包好!这是与众不同的。你想,趁热的拿来,趁热的吃下。”横肉的人只是嚷。
“真的呢,要没有康大叔照顾,怎么会这样……”华大妈也很感激的谢他。
“包好,包好!这样的趁热吃下。这样的人血馒头,什么痨病都包好!”
华大妈听到“痨病”这两个字,变了一点脸色,似乎有些不高兴;但又立刻堆上笑,搭赸⑽着走开了。这康大叔却没有觉察,仍然提高了喉咙只是嚷,嚷得里面睡着的小栓也合伙咳嗽起来。
“原来你家小栓碰到了这样的好运气了。这病自然一定全好;怪不得老栓整天的笑着呢。”花白胡子一面说,一面走到康大叔面前,低声下气的问道,“康大叔——听说今天结果的一个犯人,便是夏家的孩子,那是谁的孩子?究竟是什么事?”
“谁的?不就是夏四奶奶的儿子么?那个小家伙!”康大叔见众人都耸起耳朵听他,便格外高兴,横肉块块饱绽,越发大声说,“这小东西不要命,不要就是了。我可是这一回一点没有得到好处;连剥下来的衣服,都给管牢的红眼睛阿义拿去了。——第一要算我们栓叔运气;第二是夏三爷赏了二十五两雪白的银子,独自落腰包,一文不花。”
小栓慢慢的从小屋子里走出,两手按了胸口,不住的咳嗽;走到灶下,盛出一碗冷饭,泡上热水,坐下便吃。华大妈跟着他走,轻轻的问道,“小栓,你好些么?——你仍旧只是肚饿?……”
“包好,包好!”康大叔瞥了小栓一眼,仍然回过脸,对众人说,“夏三爷真是乖角儿⑾,要是他不先告官,连他满门抄斩⑿。现在怎样?银子!——这小东西也真不成东西!关在牢里,还要劝牢头造反。”
“阿呀,那还了得。”坐在后排的一个二十多岁的人,很现出气愤模样。
“你要晓得红眼睛阿义是去盘盘底细的,他却和他攀谈了。他说:这大清的天下是我们大家的。你想:这是人话么?红眼睛原知道他家里只有一个老娘,可是没有料到他竟会这么穷,榨不出一点油水,已经气破肚皮了。他还要老虎头上搔痒,便给他两个嘴巴!”
“义哥是一手好拳棒,这两下,一定够他受用了。”壁角的驼背忽然高兴起来。
“他这贱骨头打不怕,还要说可怜可怜哩。”
花白胡子的人说,“打了这种东西,有什么可怜呢?”
康大叔显出看他不上的样子,冷笑着说,“你没有听清我的话;看他神气,是说阿义可怜哩!”
听着的人的眼光,忽然有些板滞⒀;话也停顿了。小栓已经吃完饭,吃得满头流汗,头上都冒出蒸气来。
“阿义可怜——疯话,简直是发了疯了。”花白胡子恍然大悟似的说。
“发了疯了。”二十多岁的人也恍然大悟的说。
店里的坐客,便又现出活气,谈笑起来。小栓也趁着热闹,拚命咳嗽;康大叔走上前,拍他肩膀说:
“包好!小栓——你不要这么咳。包好!”
“疯了!”驼背五少爷点着头说。
  


西关外靠着城根的地面,本是一块官地;中间歪歪斜斜一条细路,是贪走便道的人,用鞋底造成的,但却成了自然的界限。路的左边,都埋着死刑和瘐毙⒁的人,右边是穷人的丛冢⒂。两面都已埋到层层叠叠,宛然阔人家里祝寿时的馒头。
这一年的清明,分外寒冷;杨柳才吐出半粒米大的新芽。天明未久,华大妈已在右边的一坐新坟前面,排出四碟菜,一碗饭,哭了一场。化过纸⒃,呆呆的坐在地上;仿佛等候什么似的,但自己也说不出等候什么。微风起来,吹动他⒄短发,确乎比去年白得多了。
小路上又来了一个女人,也是半白头发,褴褛的衣裙;提一个破旧的朱漆圆篮,外挂一串纸锭⒅,三步一歇的走。忽然见华大妈坐在地上看她,便有些踌躇,惨白的脸上,现出些羞愧的颜色;但终于硬着头皮,走到左边的一坐坟前,放下了篮子。
那坟与小栓的坟,一字儿排着,中间只隔一条小路。华大妈看他排好四碟菜,一碗饭,立着哭了一通,化过纸锭;心里暗暗地想,“这坟里的也是儿子了。”那老女人徘徊观望了一回,忽然手脚有些发抖,跄跄踉踉退下几步,瞪着眼只是发怔。
华大妈见这样子,生怕她伤心到快要发狂了;便忍不住立起身,跨过小路,低声对他说,“你这位老奶奶不要伤心了,——我们还是回去罢。”
那人点一点头,眼睛仍然向上瞪着;也低声痴痴的说道,“你看,——看这是什么呢?”
华大妈跟了他指头看去,眼光便到了前面的坟,这坟上草根还没有全合,露出一块一块的黄土,煞是难看。再往上仔细看时,却不觉也吃一惊;——分明有一圈红白的花,围着那尖圆的坟顶。
他们的眼睛都已老花多年了,但望这红白的花,却还能明白看见。花也不很多,圆圆的排成一个圈,不很精神,倒也整齐。华大妈忙看他儿子和别人的坟,却只有不怕冷的几点青白小花,零星开着;便觉得心里忽然感到一种不足和空虚,不愿意根究。那老女人又走近几步,细看了一遍,自言自语的说,“这没有根,不像自己开的。——这地方有谁来呢?孩子不会来玩;——亲戚本家早不来了。——这是怎么一回事呢?”他想了又想,忽又流下泪来,大声说道:
“瑜儿,他们都冤枉了你,你还是忘不了,伤心不过,今天特意显点灵,要我知道么?”他四面一看,只见一只乌鸦,站在一株没有叶的树上,便接着说,“我知道了。——瑜儿,可怜他们坑了你,他们将来总有报应,天都知道;你闭了眼睛就是了。——你如果真在这里,听到我的话,——便教这乌鸦飞上你的坟顶,给我看罢。”
微风早经停息了;枯草支支直立,有如铜丝。一丝发抖的声音,在空气中愈颤愈细,细到没有,周围便都是死一般静。两人站在枯草丛里,仰面看那乌鸦;那乌鸦也在笔直的树枝间,缩着头,铁铸一般站着。
许多的工夫过去了;上坟的人渐渐增多,几个老的小的,在土坟间出没。
华大妈不知怎的,似乎卸下了一挑重担,便想到要走;一面劝着说,“我们还是回去罢。”
那老女人叹一口气,无精打采的收起饭菜;又迟疑了一刻,终于慢慢地走了。嘴里自言自语的说,“这是怎么一回事呢?……”
他们走不上二三十步远,忽听得背后“哑——”的一声大叫;两个人都竦然⒆的回过头,只见那乌鸦张开两翅,一挫身⒇,直向着远处的天空,箭也似的飞去了。

一九一九年四月二十五日

词句注释

⑴窸(xī)窸窣(sū)窣:象声词,形容轻微的摩擦声。这里形容穿衣服的声音。
⑵蹩(bié)进:躲躲闪闪地走进。
⑶衣服前后的一个大白圆圈:清朝士兵穿的号衣(制服),前后都缀着一块圆形的白布,上面有个“兵”字或“勇字。
⑷鲜红的馒头:指蘸有人血的馒头。旧时民间迷信,认为人血可以医治肺结核病,处决犯人时,有人向刽子手买蘸过人血的馒头治病。
⑸“古囗亭口”:可念作“古某亭口”。囗,是文章里表示缺文的记号,作者是有意这样写的。浙江省绍兴县城内的轩亭口有一牌楼,匾上题有“古轩亭口”四个字。清末资产阶级民主主义革命家秋瑾于1907年在这里就义。这篇小说里夏瑜这个人物,一般认为是作者以秋瑾和其他一些资产阶级民主主义革命家的若干经历为素材而创造出来的。
⑹阳文:刻在器物上的文字,笔画凸起的叫阳文,笔画凹下的叫阴文。
⑺炒米粥:用炒过的大米煮成的粥。
⑻拗(ǎo)开:用手掰开。拗,用手折断。
⑼玄色:黑色。
⑽搭赸(shàn):一般写作“搭讪”。为了跟人接近或把尴尬的局面敷衍过去而找话说。这里是后一种意思。
⑾乖角儿:机灵人。这里指善于看风使舵的人。
⑿满门抄斩:抄没财产,杀戮全家。
⒀板滞:呆板,停止不动。
⒁瘐(yǔ)毙:旧时关在牢狱里的人因受刑或饥寒、疾病而死亡。
⒂丛冢(zhǒng):乱坟堆。冢,坟墓。
⒃化过纸:烧过纸钱。旧时有迷信观念的人认为烧过的纸钱,死者可以在阴间使用。
⒄他:指华大妈。这篇小说里的第三人称代词,不分男女,一律写作“他”。
⒅纸锭(dìng):用纸或锡箔折成的“元宝”,纸钱的一种。
⒆竦(sǒng)然:惊惧的样子。竦,通“悚”。
⒇一挫身:身子一收缩。

 

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